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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)7551号 判決

原告

伊藤正大

ほか二名

被告

有限会社磯貝建設

ほか三名

主文

一  被告らは、各自、原告伊藤正大に対し一五二五万二三三三円、原告伊藤邦子に対し九八三万三四〇八円、原告タイセイ技研株式会社に対し七七万四七六二円、及び右各金員に対する被告有限会社磯貝建設、同磯貝泰久は昭和五九年七月一四日から、被告大日本運輸株式会社、同谷口力義は昭和五九年七月一三日から、支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。

二  原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告伊藤正大、原告伊藤邦子に生じた費用を五分し、その二を右原告両名の、その余を被告らの各負担とし、原告タイセイ技研株式会社に生じた費用を被告らの負担とし、被告らに生じた費用を五分し、その三を被告らの、その余を原告伊藤正大、原告伊藤邦子の各負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告伊藤正大(以下「原告正大」という。)に対し二八三〇万〇一七六円、原告伊藤邦子(以下「原告邦子」という。)に対し一六二〇万一〇八七円、原告タイセイ技研株式会社(以下「原告会社」という。)に対し七七万五二三八円、及び右各金員に対する被告有限会社磯貝建設(以下「被告磯貝建設」という。)、同磯貝泰久(以下「被告磯貝」という。)は昭和五九年七月一四日から、被告大日本運輸株式会社(以下「被告大日本運輸」という。)、同谷口力義(以下「被告谷口」という。)は昭和五九年七月一三日から、支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五八年二月一七日午後八時三〇分ころ

(二) 場所 山梨県東八代郡一宮町大字東新居字下三口神五〇二番地の二高速自動車国道中央自動車道西宮線下り九三・五キロポスト付近道路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 加害車両 (1) 普通貨物自動車(足立一一え五五五、以下「谷口車」という。)

右運転者 被告谷口

右所有者 被告大日本運輸

(2) 普通乗用自動車(長野三三さ四四〇九、以下「磯貝車」という。)

右運転者 被告磯貝

右所有者 被告磯貝建設

(四) 被害車両 普通乗用自動車(横浜五九す四六六、以下「原告車」という。)

右運転者 原告正大

右同乗者 亡伊藤光生(以下「亡光生」という。)

(五) 事故態様 (1) 原告正大は、原告車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かつて進行中、後続のトラツク(登録番号、運転者等不明)にいわゆる当て逃げをされ、本件事故現場で停車を余儀なくされた。

(2) 被告谷口は、谷口車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かつて進行中、前記のとおり当て逃げをされたため停車中の原告車の右後部に谷口車を衝突させ、原告車を一回転させて同車前部を東京方面に向かせた。

(3) 被告磯貝は、磯貝車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かい、谷口車に後続して、時速八五キロメートルで進行中、前記のとおり前部を東京方面に向けて停車中の原告車に磯貝車を衝突させ、原告車を回転させて、本件事故現場にあるコンクリート製欄干に原告車前部を激突させた。

(六) 結果 右磯貝車の衝突により、原告車助手席に同乗していた亡光生が、フロントガラスから車外に放り出され、右コンクリート製欄干を越えて約一二メートル下の高速道路沿いのアスフアルト舗装道路に転落し、脳挫傷・頭蓋骨骨折により同日死亡し、また、本件事故により、原告正大が、第二腰椎圧迫骨折の傷害を負つた。

(右事故を以下「本件事故」という。)

2  責任原因

(一) 被告磯貝は、前方不注意の過失により本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

(二) 被告磯貝建設は、加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していた者であり、且つ、被告磯貝が代表取締役として被告磯貝建設の業務のために磯貝車を運転中に本件事故を惹起したものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)第三条及び民法第四四条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

(三) 被告谷口は、前方不注視の過失により本件事故を発生させたものであるから、民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

(四) 被告大日本運輸は、加害車両を所有し、これを自己のため運行の用に供していた者であり、且つ、本件事故は被告大日本運輸の従業員である被告谷口が被告大日本運輸の業務に従事中に惹起したものであるから、自賠法第三条及び民法第七一五条の規定に基づき、損害賠償責任を負う。

(五) 亡光生の死亡及び原告正大の受傷は、いずれも被告磯貝と被告谷口の共同不法行為によつて生じたものであり、右被告両名による加害の程度ないし両加害行為による損害を分別して量定し難いから、被告らは、亡光生の死亡による損害、原告正大の受傷による損害及びこれによる原告会社の損害のすべてにつき連帯して賠償すべき責任がある。

3  亡光生の死亡による損害

(一) 逸失利益 二九四五万六五二二円

亡光生は、死亡当時満一〇歳の男子で、本件事故により死亡しなければ、原告正大の経営する原告会社の後継者として満一八歳から満六七歳まで稼働可能であり、その間、昭和五七年賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、男子労働者、旧大・新大卒、全年齢平均給与額である年額四五六万二六〇〇円にベースアツプ分として五パーセントを加算した年額四七九万〇七三〇円の収入を得られたはずであるから、生活費として五割を控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡光生の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は二九四五万六五二二円となる。

479万0730×(1-0.5)×12.2973=2945万6522

(二) 相続

原告正大は亡光生の父であり、原告邦子は亡光生の母であつて、亡光生の死亡により、その損害賠償請求権を法定相続分に従い各二分の一の割合で相続取得したから、各自の取得額はそれぞれ一四七二万八二六一円となる。

(三) 救急病院費用 四万四八四〇円

原告正大は、亡光生が搬入された峡東病院における死体検案書その他の費用として右金額を支出した。

(四) 葬儀費用 五二万四一〇〇円

原告正大は、亡光生の葬儀を行い、これに右金額を支出した。

(五) 慰藉料 合計二〇〇〇万円

亡光生は、健康で明るい性格の少年で、原告会社の唯一の後継者であつたもので、その死亡により両親である原告正大、同邦子の被つた精神的苦痛は極めて大きく、これによる慰藉料としては、原告正大一〇〇〇万円、原告邦子一〇〇〇万円がそれぞれ相当である。

(六) 損害のてん補 合計二〇〇〇万円

以上の原告正大の損害額は二五二九万七二〇一円、原告邦子の損害額は二四七二万八二六一円となるところ、原告正大及び原告邦子は、亡光生の死亡による損害に対するてん補として磯貝車加入の自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から各一〇〇〇万円(合計二〇〇〇万円)の支払を受けたから、原告正大の残損害額は一五二九万七二〇一円、原告邦子の残損害額は一四七二万八二六一円となる。

(七) 弁護士費用 原告正大分一五二万九七二〇円

原告邦子分一四七万二八二六円

原告らは、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬を支払う旨約したが、そのうち亡光生の死亡による損害に関する分は、原告正大分一五二万九七二〇円、原告邦子分一四七万二八二六円が相当である。

したがつて、亡光生の死亡による損害は、原告正大一六八二万六九二一円、原告邦子一六二〇万一〇八七円となる。

4  原告正大の傷害、後遺障害及び損害

(一) 傷害

原告正大は、本件事故により第二腰椎圧迫骨折の傷害を負い、本件事故当日である昭和五八年二月一七日から同年三月七日まで峡東病院及び聖マリアンナ医科大学病院に入院して治療を受け、以後聖マリアンナ医科大学病院に通院して治療を受けた。

(二) 後遺障害

しかしながら、原告正大の傷害は完治せず、腰痛、腰筋の異常緊張・圧痛・運動痛、第二腰椎椎体変形があり、脊柱の運動が前屈四〇度、後屈三〇度、右屈三〇度、左屈二五度、右回旋三五度、左回旋四〇度に制限され、局所に神経症状が残存する後遺障害が残つた。

右後遺障害は、自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表(以下「等級表」という。)第八級二号に該当する。

なお、原告正大の右後遺障害につき、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)の事前認定は、等級表第一一級七号と認定しているが、右認定は、脊柱の変形のみを評価し、運動障害を評価していないから、明らかに不当である。

(三) 損害

(1) 治療費 三〇万四一八五円

原告正大は、前記傷害に対する峡東病院及び聖マリアンナ医科大学病院における治療費として、昭和五八年一〇月一九日までの間に三〇万四一八五円を支出した。

(2) 付添費 一一万八四一〇円

原告正大は、前記入院中の付添費として右金額を支出した。

(3) 諸雑費 一八万〇二四七円

原告正大は、本件事故により、税理士等との打ち合わせのための旅館代として五万〇一二七円、交通事故証明書代として二〇〇〇円、原告車の運搬費用として一二万八〇〇〇円を支出した。

(4) 交通費 一〇万七三九〇円

原告正大は、前記入通院のための交通費等として右金額を支出した。

(5) 慰藉料 九七二万円

原告正大の前記の傷害の部位、程度、治療経過、後遺障害の内容、程度に加えて、原告正大の傷害ないし後遺障害により、原告正大が代表取締役として経営する原告会社の利益が大幅に減少していること等を総合すると、原告正大の傷害による慰藉料としては三〇〇万円、後遺障害による慰藉料としては六七二万円が相当である。

(6) 弁護士費用 一〇四万三〇二三円

右(1)ないし(5)の原告正大の損害額は一〇四三万〇二三二円となるところ、原告正大は、被告らから右損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬を支払う旨約したが、そのうち右損害に関する分は一〇四万三〇二三円が相当である。

したがつて、右の原告正大の損害は、一一四七万三二五五円となる。

5  原告会社の損害

(一) 給与支払による損害 七〇万四七六二円

原告会社は、原告正大が代表取締役として経営する会社であるところ、本件事故による受傷のため原告正大が欠勤した昭和五八年二月一七日から同年四月一〇日までの五三日間の給与七〇万四七六二円を原告正大に支払い、同額の損害を被つた。

なお、原告会社は、代表取締役である原告正大の受傷により、右給与支払による損害を遥かに越える経営上の損害を被つたが、これについては、原告正大らの慰藉料算定において考慮するのが相当である。

(二) 弁護士費用 七万〇四七六円

原告会社は、被告らから右損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬を支払う旨約したが、そのうち右損害に関する分は七万〇四七六円が相当である。

したがつて、原告会社の損害は、七七万五二三八円となる。

6  よつて、原告らは、本件事故による損害賠償として、被告ら各自に対し、原告正大において二八三〇万〇一七六円、原告邦子において一六二〇万一〇八七円、原告会社において七七万五二三八円、及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日である被告磯貝建設、同磯貝は昭和五九年七月一四日から、被告大日本運輸、同谷口は昭和五九年七月一三日から、支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、それぞれ求める。

二  請求原因に対する被告磯貝建設、同磯貝の認否

1  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は認める。

同(五)の(1)の事実中、原告正大が、原告車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かつて進行したこと、原告車が本件事故現場で停車したことは認めるが、原告車が当て逃げをされたことは否認する。

同(2)の事実は認める。

同(3)の事実中、被告磯貝が、磯貝車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かい、谷口車に後続して進行中、原告車に磯貝車を衝突させたことは認める。

同(六)の事実中、本件事故により、亡光生が車外に放り出されて高速道路沿いのアスフアルト舗装道路に転落し死亡したこと、原告正大が傷害を負つたことは認めるが、磯貝車の衝突により亡光生がフロントガラスから車外に放り出されたことは否認する。

2  同2の事実中、被告磯貝が代表取締役として被告磯貝建設の業務のために磯貝車を運転中に本件事故を惹起したことは認めるが、被告磯貝建設、同磯貝の責任は争う。

3  同3の事実中、原告正大が亡光生の父、原告邦子が亡光生の母であつて、右原告両名が亡光生の死亡により、その損害賠償請求権を法定相続分に従い各二分の一の割合で相続取得したこと、原告正大が亡光生の葬儀を行い、これに五二万四一〇〇円を支出したこと、原告正大及び原告邦子が亡光生の死亡による損害に対するてん補として磯貝車加入の自賠責保険から各一〇〇〇万円(合計二〇〇〇万円)の支払を受けたことは認め、その余はいずれも不知。

4  同4の(一)の事実中、原告正大が本件事故により傷害を負い治療を受けたことは認め、その余は不知。

同(二)の事実中、原告正大の後遺障害が等級表第八級二号に該当すること、自賠責保険の事前認定が運動障害を評価していないことは否認し、その余は不知。

同(三)の事実はいずれも不知。

5  同5の事実はいずれも不知。

6  同6の主張は争う。

三  請求原因に対する被告大日本運輸、同谷口の認否

1  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は認める。

同(五)の(1)の事実中、原告正大が、原告車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かつて進行したこと、原告車が本件事故現場で停車したことは認めるが、原告車が当て逃げをされたことは否認する。

同(2)の事実中、被告谷口が、谷口車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かつて時速五一・九キロメートルで進行中、停車中の原告車に谷口車を衝突させたことは認めるが、原告車を一回転させたことは否認する。

同3の事実は認める。

同(六)の事実中、磯貝車の衝突により、原告車助手席に同乗していた亡光生が、フロントガラスから車外に放り出され、コンクリート製欄干を越えて約一二メートル下の高速道路沿いのアスフアルト舗装道路に転落し、脳挫傷・頭蓋骨骨折により同日死亡したこと、原告正大が、第二腰椎圧迫骨折の傷害を負つたことは認める。

2  同2の(三)の被告谷口の過失は否認し、同被告の責任は争う。

同(四)の事実及び被告大日本運輸の責任は認める。

同(五)のうち、被告谷口の行為が被告磯貝との共同不法行為に当たること、被告大日本運輸及び被告谷口が連帯して責任を負うことは否認する。

3  同3ないし5の事実はいずれも不知。

4  同6の主張は争う。

四  被告磯貝建設、同磯貝の主張

1  原告正大の傷害及び亡光生の死亡と磯貝車の衝突との因果関係

谷口車は、時速約六〇キロメートルで追越車線を進行し、前方約五一・九メートルの地点に前部を左側に向けた横向きで停止中の原告車を発見したにもかかわらず、ハンドルを右に転把することによつて原告車の右側を通過できるものと判断して同速度のまま進行し、原告車の約三四・六メートル手前に至つて急制動の措置をとつたものの間に合わず、谷口車左前部を原告車の左後部に衝突させたものであり、原告車の左側面の後部フエンダーが約二五センチメートル凹損して全損し、後輪がパンクし、方向指示器が取れ、バンパー先端が約二七センチメートル突出し、バンパー装着のゴム板が脱落し、トランクがめくれていることなどからみて、谷口車の原告車に対する衝突は激しかつたものと考えられる。

したがつて、谷口車の衝突によつて、原告正大の傷害が発生した可能性が高いものというべきである。

また、亡光生は、原告車から飛び出して高速道路沿いのアスフアルト舗装道路に転落して死亡しているが、亡光生が何時車外に飛び出したかは明確ではなく、谷口車の衝突後、磯貝車の衝突前に飛び出した可能性もあるのみならず、仮に、磯貝車の衝突後飛び出したとしても、被告谷口は、前記のとおり、その過失により谷口車を原告車に衝突させた結果、原告車を道路中央部に突出させたうえ、衝突の衝撃により原告正大を失神させて同原告が後続車両からの衝突を回避する措置をとることを不能にさせたため、磯貝車と原告車との衝突事故が発生したものであるから、被告谷口も、共同不法行為として亡光生の死亡による損害を賠償する責任を負うことが明らかである。

2  過失相殺

原告正大は、原告車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かつて時速約六〇キロメートルで進行中、当時左右の路肩には積雪があり、且つ、走行車線及び追越車線とも湿潤しており暗い場所で、緩やかな右カーブになつていたのであるから、このような場合、自動車運転者としては、ハンドル、ブレーキ等を的確に操作し、前方を注視しながら進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と前記速度のまま走行車線を進行して、積雪にハンドルをとられたか、前方不注視、又は居眠り運転の過失により、進行方向左側の縁石に原告車左前輪を乗り上げ、このためバランスを失い、進行方向左側のコンクリート製欄干に正面を衝突させ、この衝撃により、道路中央に原告車前部を進行方向の左側に向けて停車させたため、後方から進行してきた谷口車及び磯貝車が原告車に順次衝突するという結果を招来したものである。

したがつて、原告正大には、本件事故の発生につき過失があるから、右原告正大の過失を、同原告の傷害による損害については、過失相殺として、また、亡光生の死亡による損害については、被害者側の過失として斟酌すべきである。

五  被告大日本運輸、同谷口の主張

1  原告正大の傷害及び亡光生の死亡と谷口車の衝突との因果関係

原告正大の被つた第二腰椎圧迫骨折の傷害は、磯貝車の衝突によつて生じたものである。すなわち、右の骨折は、第二腰椎に対し上下方向から強い衝撃が加えられて発生したものとみられるところ、このような上下方向からの強い衝撃は、磯貝車が原告車に正面から衝突したときのものであつて、谷口車との衝突によるものではない。谷口車は、横向きになつて停車していた原告車の左後部フエンダーに側面から衝突し、原告車をその前部を支点として四分の一回転させたに過ぎないもので、その衝突部位、方向は、衝突時の衝撃が車体に吸収されやすいものであり、また谷口車の衝突時の速度も時速一〇キロメートル程度であるのみならず、原告正大は原告車の運転席に着席していたのであるから、衝突部位から最も離れた位置におり、右の原告車の回転の中心に近い位置にいたもので、谷口車の衝突が原告正大に与えた衝突は極めて小さく、右のような骨折を生じさせることは考えられない。

また、亡光生は、磯貝車の衝突によつて、原告車から飛び出して高速道路沿いのアスフアルト舗装道路に転落して死亡したものである。

そのうえ、原告車は、当初走行車線と追越車線の両方を塞ぐように停車していたところ、谷口車が衝突した結果、原告車は、走行車線のみを閉塞し、追越車線の通行は可能となつた。したがつて、谷口車の衝突の結果、磯貝車が事故を回避しうる余地はむしろ大幅に拡大したものであり、しかも、原告正大は、谷口車の衝突前の事故により、意識を失つていて、谷口車の衝突については全く覚えていない状態にあつたから、谷口車の衝突が原告正大の意識を失わせて磯貝車との事故の発生を回避する措置をとることを不能にさせたものではない。

右のように、原告正大の傷害及び亡光生の死亡は、磯貝車の衝突によつて発生したものであるのみならず、谷口車の衝突は、磯貝車が原告車に衝突する事故の誘因にもなつていないのであるから、谷口車の衝突と原告正大の傷害及び亡光生の死亡との間には相当因果関係がない。

2  過失相殺

本件事故当時、本件事故現場付近の路面は、降雪後のため湿潤し、また路肩には積雪があり、しかも事故現場付近は緩やかな下り坂でスリツプしやすい状態にあつたのであるから、原告正大には、スリツプしないように速度を調節し、ハンドル、ブレーキを的確に操作すべき注意義務があつたにもかかわらず、原告正大は、右注意義務を怠り、原告車をスリツプさせてハンドルをとられ、そのため原告車を暴走させてコンクリート製欄干に衝突させ、原告車を走行車線と追越車線の両方を塞ぐように前部を進行方向左側に向けて横向きに停車させたものであり、そのうえ暗い事故現場に右のように停車させたのであるから、直ちに原告車を道路脇に移動させるべき注意義務があるのにこれも怠つたものである。

したがつて、本件事故発生の根本原因は、右の原告正大の過失にあるから、本件事故による損害について過失相殺がなされるべきである。

六  被告らの主張に対する原告らの認否及び反論

1  被告磯貝建設、同磯貝の主張のうち、原告正大の過失に関する事実は否認し、過失相殺の主張は争う。

2  被告大日本運輸、同谷口の主張のうち、谷口車の衝突と原告正大の傷害及び亡光生の死亡との間には相当因果関係がないとの点は争い、原告正大の過失に関する事実は否認し、過失相殺の主張は争う。

3  原告車は、最初にトラツクに当て逃げをされたため、本件事故現場で停車を余儀なくされたのであるから、原告正大には何ら過失はないし、仮に、右当て逃げをされた事実が認められないとしても、本件事故は、停車中の原告車に谷口車及び磯貝車が順次追突してきたものであるから、原告正大には何ら過失がないものというべきであり、被告らには、全損害につき損害賠償責任があるものである。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の(一)ないし(四)の事実、同(五)の(1)の事実中、原告正大が、原告車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かつて進行したこと、原告車が本件事故現場で停車したこと、同(2)の事実中、被告谷口が、谷口車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かつて進行中、停車中の原告車に谷口車を衝突させたこと、同(3)の事実中、被告磯貝が、磯貝車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かい、谷口車に後続して進行中、原告車に磯貝車を衝突させたこと、同(六)の事実中、本件事故により、亡光生が車外に放り出されて高速道路沿いのアスフアルト舗装道路に転落し死亡したこと、原告正大が傷害を負つたことは、いずれも各当事者間に争いがない。

二  本件においては、被告磯貝、同谷口の過失の存否、原告正大の傷害及び亡光生の死亡と磯貝車及び谷口車の衝突との因果関係、並びに被告らの責任関係が争点となつているので、以下、これらの点について判断する。

1  前示の争いのない事実に、成立に争いのない甲第五号証、第六号証、第一一ないし第一三号証、第一五号証、第一八号証、第二三号証の一ないし三、乙第四ないし第一二号証、第一四号証、第一五号証、第一七ないし第三三号証、第三五ないし第四七号証、原本の存在と成立に争いのない乙第五〇号証、原告正大、被告磯貝、被告谷口各本人の尋問の結果によれば、以下の事実が認められる。

(一)  本件事故現場の道路は、いわゆる中央自動車の下り線で、事故現場付近は、町道の上に架かる高架橋上であり、上下二車線がガードレールによつて分離されており、アスフアルトによつて舗装されていること、本件事故の発生した下り線は、幅員約九・二メートルで、走行車線と追越車線に区分され、進行方向左側には高さ約〇・八メートルのコンクリート製欄干があり、路面は平坦で、東京方面(東方)から長野方面(西方)に向かつて縦断勾配三・七六パーセントの下り坂、南側から北側にかけて横断勾配二・〇パーセントの下り坂にそれぞれなつており、事故現場付近は半径一四〇〇メートルの緩やかな右カーブで、見通しは良好であり、本件事故当時交通量は少なかつたこと、本件事故現場付近は、本件事故当時、降雪のため最高速度が五〇キロメートル毎時に規制されていたが、路面には積雪はなく、路面は湿潤し、路肩付近に雪が残つていた程度であつたこと。

(二)  原告正大は、原告車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かつて走行車線を時速五〇ないし六〇キロメートルで進行中、後続のトラツクからいわゆるパツシングをされたため、進路を若干左側に寄せようとした矢先、右トラツクから原告車の右後部付近に接触されたため、走行の安定を失つて、道路左側のコンクリート製欄干に衝突した結果、走行車線と追越車線に跨がつた状態で原告車前部を進行方向左側(南方)に向けた状態で停車を余儀なくされたこと、

(三)  被告谷口は、谷口車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かつて時速約六〇キロメートルで追越車線を進行中、右(二)のとおりに停車中の原告車の約一〇〇メートル手前で道路上に黒つぽい物があることを認めたが、車両であることが判らないまま進行し、約五〇メートル手前でそれが車両であることに気付いたものの、同車の右側を通過できるものと軽信して、若干右転把して同速度のまま進行し、約三二メートル手前で衝突の危険を感じて急制動の措置を採るとともに右転把したものの、原告車の右後部側面に谷口車の左前部を衝突させたこと、右衝突時の谷口車の速度は時速一〇キロメートル程度であつたこと、

(四)  原告車は、右谷口車の衝突により、約九〇度回転して同車前部を東京方面に向け走行車線と追越車線に跨がつた状態で停車したこと、被告谷口は、右衝突後、谷口車を衝突地点の約六〇メートル前方の道路左側に停車させ、ドアを開けて降車しようとしたとき、次の磯貝車と原告車の衝突が生じたこと、

(五)  被告磯貝は、磯貝車を運転して、本件事故現場を東京方面から長野方面に向かい、谷口車に後続して、時速八〇ないし八五キロメートルで追越車線を進行し、原告車との衝突地点の約一四〇メートル手前で追越車線から走行車線に車線を変更し、約九五メートル手前で、道路の中央付近に黒つぽい大きな物があるのを発見したが、その左右いずれかを通過できるものと軽信して、同速度のまま進行し、約三〇メートル手前まで接近したとき、それが自動車であることを明確に認識し、右転把しながら急制動の措置を採つたものの、スノースパイクタイヤが摩耗していたためスリツプし、磯貝車の前部中央から左側部分を原告車の前部左側に正面衝突させたこと、右衝突時の磯貝車の速度は時速五五キロメートル以上であつたこと、

(六)  原告車は、右磯貝車の衝突により、回転して、前記のコンクリート製欄干に原告車前部を衝突させたうえ、事故現場道路の走行車線上に左後部を若干追越車線にはみ出させた状態で前部を東南方向に向けて停車したこと、右の磯貝車の衝突により原告車がコンクリート製欄干に衝突した付近の欄干上に亡光生のものとみられる毛髪が付着していたこと、

(七)  右磯貝車の衝突により、原告車助手席に同乗していた亡光生が、フロントガラスから車外に放り出され、右コンクリート製欄干を越えて約一一・六メートル下の高速道路沿いのアスフアルト舗装道路に転落し、脳挫傷・頭蓋骨骨折により同日死亡し、また、本件事故により、原告正大が、第二腰椎圧迫骨折の傷害を負つたこと、

(八)  原告車は、後輪がスパイクタイヤ、前輪がノーマルタイヤであつたところ、前輪は二本とも相当に摩耗していたこと、また、原告車は、本件事故により、左後輪がパンクし、フロントガラス及び後面ウインドガラスが前損して脱落し、前部が大破し、左側面の後部フエンダーが約二五センチメートル凹損し、左後部の方向指示器が取れ、後部左側のバンパー先端が約二七センチメートル突出し、バンパー装着のゴム板が脱落し、トランクの取付部が損傷して上方にめくれたこと、

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる確実な証拠はない。

2  右の事実によれば、原告車に対する衝突の衝撃は、谷口車の衝突による衝撃よりも磯貝車の衝突による衝撃の方が大きいものと考えられ、したがつて、原告正大の第二腰椎圧迫骨折の傷害は、磯貝車の衝突によつて生じた可能性が高いものと考えられるが、谷口車の衝突によつても原告車が約九〇度回転しているうえ、前示の原告車の左後部の損傷状況などからみて、谷口車の原告車に対する衝突も軽微なものということはできず、谷口車の衝突によつて原告正大の右傷害が発生した可能性もあるものと認められるから、ひつきよう、原告正大の右傷害は、磯貝車の衝突のみならず、谷口車の衝突との間にも相当因果関係があるものと認めるのが相当である。

3  また、亡光生の死亡は、前示のとおり、磯貝車の衝突によつてフロントガラスから車外に放り出されて約一一・六メートル下の道路に転落したことによるものと認められるが、谷口車の衝突も、これによつて原告車を下り車線の中央付近に前部を東向き(進行方向の逆向き)に停止させたもので、このことが磯貝車が原告車に正面衝突して、亡光生がフロントガラスから車外に放り出されて約一一・六メートル下の道路に転落したことの原因となつているものと認められるから、谷口車の衝突と亡光生の死亡との間には相当因果関係があるものというべきである。

4  右1に認定した事実によれば、被告磯貝は、制限速度を超える速度で進行したうえ、進路前方に黒つぽい障害物を認めたのであるから、十分減速して進行すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失により本件事故を発生させたものであり、また、被告谷口は、進路前方に黒つぽい障害物を認めたのであるから、十分減速して進行すべき注意義務があるのにこれを怠つた過失により本件事故を発生させたものであるから、右被告両名は、いずれも民法第七〇九条の規定に基づき、損害賠償責任を負うものというべきである。

また、被告磯貝建設が、磯貝車を所有していることは、当事者間に争いがないところ、他に特段の事情の認められない本件においては、被告磯貝建設は、これを自己のため運行の用に供していた者であると認めるのが相当であるから、被告磯貝建設は、自賠法第三条の規定に基づき、損害賠償責任を負うものというべきである。

さらに、被告大日本運輸が、谷口車を自己のため運行の用に供していた者として、自賠法第三条の規定に基づき、損害賠償責任を負うことは、原告らと被告大日本運輸との間において争いがない。

そして、亡光生の死亡及び原告正大の受傷が、いずれも磯貝車及び谷口車の衝突と相当因果関係があることは、前示のとおりであつて、亡光生の死亡及び原告正大の受傷は、いずれも被告磯貝と被告谷口の共同不法行為によつて生じたものというべきであるから、被告らは、亡光生の死亡による損害、原告正大の受傷による損害及びこれによる原告会社の損害につき連帯して賠償すべき責任があるものというべきである。

三  ここで、過失相殺の主張について判断するに、被告らは、最初に原告車が本件事故現場に停車するに至つたのは、原告正大のハンドル、ブレーキ操作の不適切等による自損事故によるものである旨主張し、前掲各証拠によれば、原告車の後部には、後続のトラツクが接触ないし追突をしたことによることが明らかな損傷がみられないこと、原告正大は、原告車に接触したトラツクの車種等について明確な供述をしていないこと、走行車線を進行中の原告車に対して後続車両がいわゆるパツシングをすることは、やや不自然の感があること、本件事故の捜査に当たつた捜査機関においても、原告正大の自損事故があつたものと判断していることなど、原告車が最初に後続のトラツクに接触ないし追突されたことについて疑問を抱かせる事実が認められる。

しかしながら、前掲乙第五号証をはじめ前掲各証拠によれば、原告車の後部バンパーに二か所及び同所に設置されている衝撃吸収バンパーの同位置二か所に僅かな凹みが存在するところ、これが本件事故の際生じたものであるか否かが明確でなく、したがつて、原告ら主張の後続のトラツクに接触ないし追突されたことにより生じた可能性も否定できないこと、また、原告正大の捜査機関に対する供述はある程度の変遷があるものの、原告正大が自損事故を起こした旨の明確な供述をしたことは一度もないこと、さらに、本件事故発生の時刻は夜間であつて、他の走行車両の車種等について明確に認識することが困難な状況にあつたものとみられるうえ、原告正大が、後続のトラツクに接触されて原告車の安定を失い、その回復に神経を集中していたとすれば、右のトラツクについて明確な認識ないし記憶を有していないとしても、左程不自然でないこと、しかも、走行車線を走行中の原告車に対して後続のトラツクがいわゆるパツシングをすることもあり得ないことではないこと、さらには、被告ら主張のような原告正大の自損事故があつたことを認めるに足りる積極的な証拠も見当たらないことを合わせ考えると、原告正大の後続のトラツクにパツシングをされたうえ接触された旨の供述を虚偽であるとして排斥するのは相当でないものというべきであり、そのほか、原告正大に過失相殺をなすべきほどの過失があつた事実を認めるに足りる証拠はないから、ひつきよう、本件においては、原告正大の自損事故その他の過失を理由とする被告らの過失相殺ないし被害者側の過失の主張は理由がないものというべきである。

四  続いて、損害等について判断する。

1  亡光生関係の損害

(一)  逸失利益 二五〇六万六八一六円

前掲甲第五号証、第六号証及び原告正大本人の尋問の結果によれば、亡光生は、死亡当時満一〇歳の健康な男子であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によれは、亡光生は、本件事故により死亡しなければ、満一八歳から満六七歳まで稼働可能であり、その間、昭和五九年賃金センサス第一巻第一表、企業規模計、産業計、男子労働者、学歴計、全年齢平均給与額である年額四〇七万六八〇〇円の収入を得られたはずであるから、生活費として五割を控除し、ライプニツツ式計算法により年五分の割合による中間利息を控除して、亡光生の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり、その合計額は二五〇六万六八一六円(一円未満切捨)となる。

407万6800×(1-0.5)×12.2973=2506万6816

(二)  相続

前掲甲第五号証、第六号証、原告正大本人の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告正大は亡光生の父であり、原告邦子は亡光生の母であつて、亡光生の死亡により、その損害賠償請求権を法定相続分に従い各二分の一の割合で相続取得したことが認められ、右認定に反する証拠はない(右の身分関係及び相続割合については、原告らと被告磯貝建設、同磯貝との間において争いがない。)。

したがつて、原告正大、同邦子の相続取得額はそれぞれ一二五三万三四〇八円となる。

(三)  救急病院費用 四万四八四〇円

成立に争いのない甲第四号証、原告正大本人の尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一〇号証の一によれば、原告正大は、亡光生が搬入された峡東病院における死体検案書その他の費用として、少なくとも右金額を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(四)  葬儀費用 五二万四一〇〇円

原告正大本人の尋問に結果により真正に成立したものと認める甲第一〇号証の二ないし一三及び原告正大本人の尋問の結果によれば、原告正大は、亡光生の葬儀を行い、これに右金額を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(五)  慰藉料 合計一三〇〇万円

原告正大本人の尋問の結果によれば、亡光生の死亡により原告正大及び原告邦子が被つた精神的苦痛は極めて大きいことが認められ、その他本件において認められる諸般の事情を総合勘案すると、亡光生の死亡による原告正大及び原告伊藤邦子の慰藉料としては、それぞれ六五〇万円をもつて相当と認める。

(六)  損害のてん補 合計二〇〇〇万円

以上の原告正大の損害額は一九六〇万二三四八円、原告邦子の損害額は九〇三万三四〇八円となるところ、原告正大及び原告邦子が、亡光生の死亡による損害に対するてん補として磯貝車加入の自賠責保険から各一〇〇〇万円(合計二〇〇〇万円)の支払を受けたことは、右原告らの自認するところであるから、原告正大の残損害賠償額は九六〇万二三四八円、原告邦子の残損害額は九〇三万三四〇八円となる。

2  原告正大の傷害、後遺障害及び損害

(一)  傷害及び後遺障害

原告正大が本件事故により第二腰椎圧迫骨折の傷害を負つたことは、前示のとおりであり、前掲甲第一一ないし第一三号証、第一五号証、第一八号証、第二三号証の一ないし三、乙第五〇号証、成立に争いのない甲第一四号証、第一六号証、第一七号証、原本の存在と成立に争いのない乙第四八号証、第四九号証及び原告正大本人の尋問の結果によれば、原告正大は、右傷害により、本件事故当日である昭和五八年二月一七日から同年三月一日まで峡東病院に、同月四日から同月七日まで聖マリアンナ医科大学病院にそれぞれ入院して治療を受けたほか、聖マリアンナ医科大学病院に同月一日から同年九月二四日までの間に実日数一二日通院して治療を受けたこと、しかしながら、原告正大の傷害は完治せず、腰痛、腰筋の異常緊張・圧痛・運動痛、第二腰椎椎体変形があり、脊柱の運動が前屈四〇度、後屈三〇度、右屈三〇度、左屈二五度、右回旋三五度、左回旋四〇度に制限され、局所に神経症状が残存する後遺障害が残り、右後遺障害について、自賠責保険の事前認定により等級表第一一級七号に該当する旨の認定を受けたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の原告正大の後遺障害の内容、程度に照らすと、原告正大の後遺障害は、等級表第一一級に該当するものと認めるのが相当である。

なお、等級表第八級二号の「脊柱に運動障害を残すもの」とは、運動可能領域が正常可動範囲のほぼ二分の一程度にまで制限されたもの等をいうものと解すべきところ、右認定の運動障害の程度は、これを該当しないから、右運動障害をもつて等級表第八級二号に該当するものということはできず、そのほか原告正大の後遺障害が等級表第一一級を上回る等級に該当する程度であることを認めるに足りる証拠はない。

(二)  損害

(1) 治療費 三〇万四一八五円

前掲甲第一四号証、第一六号証、第一七号証、成立に争いのない甲第一九号証の一ないし一七及び原告正大本人の尋問の結果によれば、原告正大は、前掲傷害に対する峡東病院及び聖マリアンナ医科大学病院における治療費として、昭和五八年一〇月一九日までの間に三〇万四一八五円を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(2) 付添費 一一万八四一〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一九号証の一八によれば、原告正大は、前記入院中の付添費として右金額を支出したことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(3) 諸雑費 一三万円

成立に争いのない甲第一九号証の二一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一九号証の一九、二〇、二二によれば、原告正大は、本件事故により、税理士等との打ち合わせのための旅館代として五万〇一二七円、交通事故証明書代として二〇〇〇円、原告車の運搬費用として一二万八〇〇〇円等の諸雑費を支出したことが認められるが、税理士等との打ち合わせのための旅館代については、これを本件事故と相当因果関係のある損害と認めるに足りる証拠がないから、結局、諸雑費の損害は一三万円となる。

(4) 交通費 四万七三九〇円

成立に争いのない甲第一九号証の二三、二四、二九ないし三二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第一九号証の二五ないし二八、三三によれば、原告正大は、前記入通院のための交通費等として一〇万七三九〇円を支出したことが認められるが、このうち渡辺剛、西山安治、関口景雄の病院往復費、高速道路料金、ガソリン代及びお礼(合計六万円)については、これを本件事故と相当因果関係のある損害と認めるに足りる証拠がないから、交通費等の損害は四万七三九〇円となる。

(5) 慰藉料 三八五万円

原告正大の前示の傷害の部位、程度、治療経過、後遺障害の内容、程度、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、原告正大の傷害による慰藉料としては一〇〇万円、後遺障害による慰藉料としては二八五万円をもつて相当と認める。

(6) 以上の原告正大の傷害による損害は、合計四四四万九九八五円となる。

3  原告会社の損害 七〇万四七六二円

原告正大本人の尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第二〇号証の一ないし三及び原告正大本人の尋問の結果によれば、原告正大は、本件事故当時、原告会社を代表取締役として経営し、年額四八〇万円の給与の支給を受けていたところ、本件事故による受傷のため、昭和五八年二月一七日から同年四月一〇日までの五三日間欠勤したこと、しかしながら、原告会社は、原告正大から労務の提供を受けなかつたにもかかわらず、右期間の給与七〇万四七六二円を原告正大に支払つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右の事実によれは、原告会社が支払つた給与七〇万四七六二円は、本来であれば原告正大の休業損害が生じるところ、これを原告会社が支払つたため原告会社の損害として生じているものと認めることができるから、本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

4  弁護士費用 合計二〇七万円

原告正大本人の尋問の結果及び弁論の全趣旨によれは、原告らは、被告らから損害額の任意の弁済を受けられないため、弁護士である原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び報酬を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟の難易、審理経過、前示認容額、その他本件において認められる諸般の事情を総合すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては、原告正大分一二〇万円、原告邦子分八〇万円、原告会社分七万円をもつてそれぞれ相当と認める。

(五) 以上によれば、原告らの被告らに対する本訴請求は、本件事故による損害賠償として、被告ら各自に対し、原告正大において一五二五万二三三三円、原告邦子において九八三万三四〇八円、原告会社において七七万四七六二円、及び右各金員に対する本件事故発生の日ののちである被告磯貝建設、同磯貝は昭和五九年七月一四日から、被告大日本運輸、同谷口は昭和五九年七月一三日から、支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度でこれを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林和明)

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